Cyphaspis / キファスピス
モロッコを東西に走るアトラス山脈一帯は、多種多様なデボン紀の三葉虫が産出する世界的な一大産地として有名です。この地域のものは概して保存状態が良く、複眼や棘,突起が非常に発達したもの、複雑な形状や特異な形の部位を持つもの等、これまでに多くの人々を魅了してきました。化石産業が同国の重要な外貨獲得の手段の一つのため、三葉虫化石についても1990年代頃から次第に様々な種類のものが市場に出てくるようになりましたが、現在ではその当時と比べると化石を剖出する技術も格段に上がり、長く伸びる突起や1mm以下の棘を体全体に渡って立体的に完璧に剖出する職人も現れ、その人気に拍車を掛けています。なお、学術的にはここ10年ほど前からようやく地層の調査や種の記載が始まったところであり、それ故に現在も市場に出回る標本の種名には曖昧な点が多いことから、今後もしばらくの間は注意が必要な状況です。
Cyphaspis (キファスピス)は、Proetida (プロエトゥス目)の中のAulacopleuroidea (アウラコプレウラ超科)、Aulacopleuridae (アウラコプレウラ科)に属しており、非常に長いgenal spine (頬棘)および胸部中心からのaxial spine (軸棘)が最大の特徴です。現地モロッコでは以前よりOtarion (オタリオン)という名前で呼ばれてきましたが、最近では市場でも学術的に記載された名前であるCyphaspis (キファスピス)で呼ばれることがほとんどとなってきました。
devil's horn (デビルホーン)と呼ばれる2本の頭部の棘が特徴的なC.walteri (C.ワルテリ)、全身が小さな棘に覆われているC.boutscharafinense (C.ボウチャラフィネンセ)、Gerastos (ゲラストス)のような胴体に非常に長い頬棘と軸棘が特徴的なC.eberhardiei (C.エベルハルディエイ)、それにさらに頭鞍頂部に小さな突起があるCyphaspis eximia (C.エキシミア)の他、さらに異なる姿をしたものがモロッコからだけでも数多く報告されています。